DRAGON QUEST6外伝 モンストル英雄伝説1

 

 

『お〜い!!みんなぁっ!!すげぇニュースだ!!魔王ムドーが勇者たちに倒されたんだってよ!!』
周りを深い森に囲まれたここ、モンストルに息を切らしながらやってきた隣村の住民が町に入ったとたんこう叫んだ。
そのとたん人々の歓声と、どよめきが街中で広がってゆく。

「えっ!!??本当なのかよ!?そのことは?」
「ああ!!レイドックの王様が発表したから、間違いないぜっ!!そうだ!まだここの町長にこの話伝えに来たんだ…今から行ってくるわ」
「よーし!!今夜は魔王が倒された祝いだ!!飲みまくるぞ!!」
「これで、もうこの町はモンストラーにも怯えなくてすむのね!」

この世界の人々を、苦しめていた魔王『ムドー』が倒されたということは一瞬にしてこの小さな町中に広がっていった。
ほとんどの店が"ムドー打倒記念大安売り"と称して商売していた。

街の酒場では昼間だと言うのに浮かれた人々が集まり酒を浴びるように飲み、最高に盛り上がっている。
街角で遊ぶ子どもたちもその空気を察したのだろうか、顔が明るくなっている。




 人々の飲めや歌えやの町中の宴は3日3晩続いた。しかし街の空気とは逆にある一人の男だけはその空気になじめず、

家の中から浮かれた人々を眺めていた。

『ムドー』は確かに倒れたが、毎晩遠くから聴こえる不気味なうめき声は…もしや…まだ…町の人たちは気にも留めていないようだが…

「よぉアモス?どうしたんだい〜?ムドーが倒れたと言うのに浮かれない顔しちゃって〜どうだ?一杯やらないか!?」
アモスと幼馴染の隣の住人があまり姿を見せないアモスを心配して、伺いに来たのだ。
「いや、今日は遠慮しとくよ。すまないね…」
「そうか…また今度絶対に飲もうぜ!」
「もちろん!」
アモスは家にやってきた友を笑顔で見送った。しかし心から笑える日はいつ来るのだろうか。

 ようやく町中の昼夜の宴が収まりかけたこの日の夜も、魔物のうめき声がアモスにだけ聴こえていた。

気のせいだろうか、今日はその声が少しこちらに近づいているような気がしていた。アモスは感じていた。

この町に近づいてくる、北の山に住んでいると言われる魔物モンストラーの気配を。


 この町は幾度かモンストラーに襲われて、壊滅寸前になったことがあるという。
この前の襲来はまだアモスは幼さなかったころなのでほとんど記憶は残っていないが、逃げ惑う人々、残虐に殺されていった人々、

響き渡る悲鳴などの映像と音声だけが記憶に刻み込まれていた。
この数回の襲撃でモンストラーはあと一追いというところで逃げられてしまい、今までこの町は数十年モンストラーに苦しめられ続けていたのだった。
アモスはこの町がモンストラーに破壊しつくされて行く光景を見て、この町を…人々を守るために戦士になることを志願した。
毎日、この町を囲む広大な森や山に行き、剣の腕を鍛え続けていた。誰に教わることも無く、独学でその腕を上げていった。

そしていつの間にかこの町でアモスの横に出るものが居なくなるほどの戦士になっていたのだ。

アモスが居るおかげで住民は町で安全に暮らしていけるといってもいいだろう。

 山の辺りに傾いていた月がちょうど真上に来たころだった。突如この町を激しい地震が襲ったのだ。
アモスはこのゆれとともに目覚めた。と、それと同時だった。町の中心部から女性の悲鳴が響き渡る。

『キャーーーーーーーーッ!!!!』
『モ…モンストラーだ!!!!逃げろ!!逃げるんだ!!!』
そのとたん、家の中で就寝をしていた人々がいっせいに飛び出してきて、町のはずれにある地下に掘られた避難所に逃げ込んだ。
この避難所はこれまで町を襲われたときの教訓として作られたものだ。モンストラーの起こす地震でも耐えられるつくりだ。


グゥゥゥゥゥ…ガルルルル…


モンストラーはすでに町の入り口にある住宅などを破壊し始めていた。幸いそこの住民たちは避難所に逃げ込んでいた。

「アモス、モンストラーが…現れた…ぞ…は…は、早く逃げようぜ」
アモスの家に先ほど酒の誘いをした幼馴染がやってきた。
しかしアモスは逃げようとはしなかった。そう、自分に課せられた宿命を解っているかのように。
「…アモス…?あっ……」
幼馴染であるこの男は小さなときからアモスを見ていた。そして、逃げない理由を察したようだ。

アモスは無言で剣を手に持ち、玄関へ向かい外へ出ていった。
「アモス!!」
隣の住人がアモスを呼び止め、その声でアモスは振り返った。月の青白い光が男の顔を照らしている。
「生きて…帰って来いよ…帰ってきたら…絶対に…絶対に今度こそ飲みに行こうぜ!!」
「ああ!もちろんさっ!!」
アモスは男にグゥサインをして、モンストラーが居るほうへと向かっていった。


『絶対に生きて帰ってくるよ』

 

 

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