星のまたたき1

 

 漆黒の夜空に今日も無数の星たちが輝いている。

セントシュタイン側、キサゴナ遺跡の入り口がある高台から、今日も一人で夜空を眺めていた。

 

 人々が言う「星吹雪の夜」に星になってしまった天使たち。

そしてガナン帝国城で、ガナサダイからぼくを守るために身代わりになって散ってしまった大切な人…

星空の守り人たちは何も言わずただ空に広がる漆黒の海に浮かんでいる。

 

 

 

 ガナサダイとの戦いを終え、天使界に帰った時にラフェットさんから初めて聞いた事。

 

―――役目を終えた天使は星になる

 

 そう、ぼくはあの日から毎日星に向かって祈り続けていた。あの人が安らかでありますようにと。

 

 

 

 大きな星も小さな星も同じ空の下輝いている。

あの大きな星は長老様かな?とかあの赤っぽい星は…ラフェットさんかな?とか。

星を見ながらそんなことを考えたりする。

最近空の頂点で一つだけ移動しない星があることに気付いた。

他の星は何日かごとに移動をしてゆくのに。

 

 

―――あの星は…イザヤールさんなの?もしそうなら何か言ってよ!

もちろん星からの反応はなかった。

 

 

 夜が明け、今日は宝の地図に潜る予定をしていた。仲間達は準備をしている。

1階のフロントに降りてきた時、ぼくが話しかける時以外めったに喋り掛けてこないラヴィエルさんが声をかけてきた。

 「ロエル、よい時にやって来てくれた。キミが来るのを待っていたんだ。少し頼みがあるのだが…聞いてはもらえないかな?」

 

いつもカウンターに腰掛けている、星空の守り人にならなかった謎の天使。

他人に頼み事なんてするような人には見え無かったので、ぼくはこのとき少し驚いていた。

 

 「普段からキミに"星が瞬く時を待っている"といっていたが、昨日の夜その星がまたたいたのだ。

星はわたしにメッセージを伝えてきた。

それは天使のあらゆる願いをかなえてくれる"女神のいのり"と呼ばれる幻の宝石を取ってきてほしい。と」

 

 表情はいつもの通りクールだが、言葉の一つ一つに熱い感情がこもっており、少し慌てているように感じた。

彼女の様子を見ていると断るわけにも行かないので、頼みごとを引き受けた。

 

 「ありがとう。詳しいことは…ロエル…星の願いがかなった時伝えよう。

用件だけで本当にすまない…そして、わたしはここを離れることが出来ない…だからキミに頼んだんだ。

ロエルなら引き受けてくれると信じていた。

だからここでキミを信じ、帰りを待っているよ。そうだ、女神のいのりは宝の地図のボスである、

魔剣神レパルドが持っているそうだ。星がそう言っている。すまないがよろしくたのんだよ…」

 

 

 

 早速仲間達とレパルドのいる地図に潜り、レパルドを倒した。

倒した後、レパルドが立っていた場所にキラキラ光るものが見えた。

 

―――これが、女神のいのり…

 

 今まで様々な人から頼みごとを聞いてきて、その間にも宝物の依頼も多く、宝石関係のものはたくさん見てきたけど、

この宝石は明らかにままで見てきたものとは違う。

天使の願い…一体誰の願いをかなえるものなのだろうか?もしぼくが天使だったならこう願うだろう…

 

―――あの人を…イザヤールさんを…生き還らせて欲しい。ぼくと同じ人間として。

もちろんぼくはすでに人間であり、そのことを願っても宝石は何の反応もしなかった。

 

 セントシュタインリッカの宿屋。

すぐにラヴィエルさんの元へ向かう。いつもはカウンターテーブルの上に座ってるはずなのに、

テーブルの前に立って、まるでぼくの帰りを待ち焦がれていたかのようだった。

 「ロエル。ありがとう。これが女神のいのり…綺麗な宝石だな。これであの方の願いが…

とても申し訳ないんだが、星が…再びまたたいた。星の願いはまだ終わっていないそうだ。

女神のいのりを…神の国にいらっしゃる、セレシアさまの元へ届けて欲しい…申し訳ないが、セレシアさまへこれを届けに

行ってもらえないかな?」

 

 

 

 

―――神の国

 

 創造神グラン・ゼニスの住まう、少し前までは"悲劇の天使"により、禍々しい"絶望と憎悪の魔宮"だった場所。

今ではすっかり元の姿に戻っている。

神の国のいたるところに"星空の守り人"の像がある。それぞれに祈りをささげ、ぼくは女神セレシアの元へ向かった。

 光の階段を上り、虹の橋を渡り、神の国の一番奥の神殿へと辿り着いた。

神殿の主は行方知らずになっており、今では神殿の奥に女神セレシアだけがそこに佇まいを置いている。

 

 

 セレシアは慈悲に満ちた表情でそこに立っていた。まるでぼくがここにやってくるのを知っていたかのように。

 

 「ロエルですね。きっとあなたが、星の願いを聞き届けてくれると信じていました。

そしてあなたが女神のいのりを持ち、ここにやってくることも…

ロエル、わたしの手の上に、女神のいのりを乗せてください。今からわたしがこの宝石の本来の力を引き出します」

 

 

 セレシアはしゃがみ、ぼくの前に手を差し出した。ぼくはそっと女神のいのりを彼女の手の上に乗せた。

セレシアの手に乗せられた宝石は輝きだし、そのうちぼくたちのいる場所中がまばゆい光に覆われた。

やがて部屋は元の明るさに戻った。

 

 

 「ロエル。これでこの宝石は、本来の力を取り戻しました。これをこれを持って、星の願い事を…

あの日から…瞬いていた星が、こう訴え続けて来ていたのです。"ロエルに自分の思い出を見せて欲しい"…と」

 

 

 セレシアはそう言うと女神のいのりをぼくの手のひらにそっと戻した。

 

 

 「あなたならもう分かっているかもしれませんが…星の願いとは天使の願い…どうかお願いします。

星になった今も苦しみ続け、悲痛な訴えを続けている彼を救ってあげてください…」

 

ぼくはゆっくりと頷いた。

 

 

 「では今からあなたを思い出の中へと誘います。天使界での出来事は全て私の中にあります。

心の準備は出来ましたか?準備が出来たら目を瞑ってください。女神のいのりは天使の運命さえ変えることが出来る…

このことを、覚えておいてくださいね」

 

 

何故か心臓の音が高鳴っている。

 

 

そしてそっと目を閉じた。

 

 

真っ白な世界。

 

 

ぼくは時空の果てへと送り出された。

 

 

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