DRAGON QUEST6外伝 モンストル英雄伝説2

 

 

 

幼馴染の男に見送られた後、アモスはモンストラーが、暴れている現場へと向かっていった。
その顔つきはいつものアモスとは違った表情だった。





『この町、そしてこの町の人たちのため…たとえこの命が消えようとも…』





「おいおまえさん、アモスはどうしたんじゃ?」
避難所に駆け込んだ幼馴染の男に、町の老人が聞いた。
「アモス…あいつ、モンストラーのところへ行っちまったよ…」
「な…なんじゃと??!!なぜ止めんかったんじゃ!?アモス一人であの恐ろしい怪物を…」
老人はこの男とともにアモスもやってくると思っていたようだ。
「俺さ、あいつが小さいときからずっと一緒だろ?…前にモンストラーが襲って来たときからあいつ…

この町をと…人たちを守るために、今度やってきたら絶対にモンストラーをやっつけてやるって言ってて…

さっきのあいつの顔を見ていたら、もう止められなかった…」
「…おお、アモスよ…お主はなぜ…」
老人は力が抜けたかのように地面に座り込んでしまった…

この会話を聞いていた周りの人たちからすすり泣く声がところどころから聞こえていた。
「皆さん…わたしたちにはアモスさんが生きて…たとえモンストラーを倒せなくても…帰ってくることを…

お祈りするしかありません…神よ、わが町の勇者アモスにご加護を」
老人の横に居た町の神父がお祈りを始めた。周りに居た住民も一斉に祈り始めた。
と、そのときだった一人の女性が青ざめた顔で、避難所に駆け込んできて、町長の元に駆けつけた。
「はあ…はあ…わ…わたしの子ども見ませんでしたか?逃げている途中で…

はぐれてしまったんですが…今まで…逃げてきた道を探しても…居なくて…」
「お名前はなんとおっしゃいますか?」
「ラ…ランドルです…四才です…」
この女性、町長と大人数人で避難所中を探したが、迷子と思われる子どもは見当たらない。
「そ…そんな…今頃…あ…あの子が…モンストラーに…お…お襲われて…それで…ああっ!!」
泣き崩れた彼女に神父が声をかけた。
「奥さん、気を確かに…今、アモスさんが…モンストラーのもとに…」
「アモスさんが…?」
「彼が…あなたのお子さんを…守ってくれるでしょう」



 アモスはモンストラーが居るであろう場所へと歩き続けていた。街は無人のため真っ暗なので、たいまつをともしながら走っている。

この町の中心のあたりに来たころだった、子どもの泣き声が聴こえる。
アモスはその方向へ走っていく。
「まだ…子どもが残っていたのか!」
ただならぬ泣き声で、アモスは徐々に不安になってゆく。


 闇に光る赤い目、大きな小屋ほどの大きさの怪物の影。月の光の逆光になっているため怪物の姿は良くは判らない。

その前には泣き声の主であろう四才くらいの子どもが座り込んで泣いていた。



 アモスは子どもを守るためにそこへ駆け寄っていった。と、そのときだった。怪物は突然、泣き叫ぶ子どものほうに飛びこみ、襲い掛かろうとしたのだ。

鋭い爪が襲い掛かってくる。


ガルゥゥゥゥゥゥ!!!!!


ガッ…グサッ!!
「うっ!!…」


 アモスはモンストラーから子どもをかばい、怪物の爪を受けてしまったのだ。
「よかった…坊や…大丈夫かい…?お母さんとはぐれたみたいだね?お…おじさんが助けてあげるよ…」
アモスは子どもを抱きかかえ、「ここに隠れているんだよ」と言い、木の陰のところに下ろした。背中からは血が流れている。

アモスは自分が覚えている唯一の呪文であるホイミを唱え背中の傷を癒した。

 その直後だった。アモスの目は、今まで誰にも見せたことの無い、鋭い目つきで魔物をにらんでいた。

いつものアモスからは微塵も感じられない怒りのオーラとともに。

アモスはサッと剣を抜き、身構える。その直後突風がモンストラーとアモスの横を通り過ぎていった。
その直後だった、アモスは目にも止まらぬ速さで、魔物に切り込んでいったのだ


ザクッ!!


魔物の頭部を狙ったが避けられてしまい腹部に切りつけた。魔物からは血が吹き出ている。ダメージは30くらいだろうか。

切りつけた後、魔物から離れようとしたそのとき、魔物が背後からアモスに近づき、再び鋭い爪を立てた。
「ぐっ…ああっ!!!…」
今度の攻撃では先ほどよりも大きなダメージを受けてしまったので、アモスの体力の消耗も大きかった。
彼は再びホイミを唱え、回復をした。しかし彼のマジックパワーも限られているので、長期戦になると回復が出来なくなる。
「はぁ…はぁ…なかなか…手ごわい…な…」
再びアモスの攻撃、次は首の辺りを狙い見事命中した。かなり魔物の方も痛かったのだろうか悲鳴を上げる。
このとき、双方とも深い傷を負っていた。その直後、モンストラーは前足を少し浮かし、地面に激しく叩きつけ地響きを起こした。

激しい揺れがアモスを襲い、大きなダメージを受けてしまった。もう、ホイミだけの回復では間に合わない。
このときアモスの体力は半分も残っておらず、後二回くらい攻撃されると間違いなく命は無い。アモスは次の攻撃に備え息を凝らしている。
さきほど助けた子どもも、アモスの戦いを木の陰から泣きながら見ていた。
「おじちゃん!!が…んばって!!」
その声が聞こえたのだろうか、アモスの中で何かが目覚めた。
『わたしが…倒れたら…この子も…この町も…』




「…よくもこの町を…人々を…苦しめ続けてくれたな…この…この化け物めっ!!!!!」



その瞬間だったアモスは魔物の懐へと飛び込んでいき、急所を突いた。そのとき、アモスの剣からは不思議な赤い光がオーラのように出ていたのだ。
『ウギャァァァァァァァッ!!!』
魔物の断末魔の悲鳴が、無人の街角に響き渡る。
アモスは魔物から吹き出た返り血でどんどん赤く染まってゆく。

急所は突いたが大きな魔物なので即死はしなかったが、しばらく経った後、魔物は動かなくなっていた。
動かなくなったことを確認して、魔物のもとから抜け出そうとしたときだった。

死んだはずの魔物が突如、狂ったかのように動き出したのだ。アモスが咄嗟に剣で切りつけようとしたとき、腰に痛みが走る。
「ぐわぁっ…ああっ!!…」
アモスに鋭い牙で噛み付いた後、魔物は完全に息絶えたのだ。


ドサッ


アモスはその後、力尽きたかのように魔物の横で同じように倒れこんだ。その直後だった。魔物の断末魔を聴いたこの町の住民がここに戻ってきた。
「モ…モンストラーが死んでおる!!ヤツはモンストラーを倒しよった!!!しかし…ア…アモスよ!!」
老人は魔物の横で倒れこんでいるアモスを見て叫んでいた。
「ランドル!!」
「おかあちゃん!!!お…おじちゃんが…ぼくを守ってくれたおじちゃんが…わーーーーっ!!!!」
「ランドル…無事で良かったわ…でも…ア…アモスさんが…」
子どもの母親が駆け寄る。この状況を見た限りでは、誰もがもうアモスは息絶えているとしか思えなかった。

彼女も自分の子どもを守ってくれた町の英雄の死を悲しんでいた。周囲からは再び泣き声が上がっていた。
「ア…アモス!!」
「アモスさんが死んじゃうなんて!!」
「アモスさん!!こ、これはひどい…」
神父がやってきて生死を確かめた。
「皆さん!!!ご安心を!アモスさんは生きています!!!このままわたしどもは、アモスさんを教会へ運びます」
魔物の返り血と自分の血で、赤く染まってしまったアモスは幼馴染の男、神父と宿屋の主人が運び、

モンストラーから助けた子ども、その母親も同じく付き添いで教会まで付いて来た。

  『…』

朝日のまぶしい光で目を覚ました。
「…ここは…」
「アモスさん、目覚められましたか?」
「神父さん…ということは、わたしは死んでないんですね?」
「そのとおりです。あなたのことは町の皆さんすべてが"英雄"だと称えてます」

アモスの元には見舞いの人々が後を耐えなかった。昨日助けた子どもとその母親もやってきた。そして幼馴染の男も…
アモスは瀕死だったが、神父の懸命の治療で明くる日には回復していたのだ。
そう、ただひとつの傷を除いて。

 この町はもう、モンストラーの脅威から恐れることは無いと町の住人たちは本当にそう思ったのだ。

しかし本当にこの町に安らかな日が訪れるのはまだ先のことであった。

それがこの町を救った"英雄"がモンストラーの"呪い"によって引き起こす問題だとは、まだこのときは誰一人気づいていない。

 

 

 

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