DRAGON QUEST6

新しい仲間2 〜不思議な共通点〜

 

 

 

ロエルはハッサンを追いかけていた。しばらく走った後、前方にハッサンが見えた。

彼は大きな湖の横にある草地に、ぽつんとロエルを待つかのように座っていたのだ。

 

「おーい!!ハッサン!はぁ…はぁ…いきなり走んないでよ…」

「へへへっ…わりぃ、わりぃ…俺さ、疲れたからここでちょっと休憩してたところだったんだけど、おまえも休むか?」

「うん。今思ったんだけどハッサン、今日は走ってばかりだね」

「そういわれりゃそうだよな、あははっ」

 

ハッサンは頭を掻きながら笑っていた。ロエルはさっきまで走っていたので、湖から吹き込む冷たい風がとても心地よかった。

彼の青く少し紫がかっている、逆立った髪の毛も風とともにゆっくりと靡いていた。ロエルはのどが渇いたのか、

透明で一つの濁りもない、湖の水を手に汲み上げごくごくと音を立て飲んでいる。

 

ハッサンはボーっと湖を眺めている。水際にはアオサギが、水面下に泳いでいるであろう魚を狙っている。

アオサギが魚に狙いを定めたのか、バシャっと水の中に何かが入り込む音がする。

 

「ハッサンって、なんで旅に出ようと思ったの?」

「へっ?…実はさ、あんまり良い理由じゃねぇんだけど、実家の仕事の跡を継ぐのが嫌でよ、親父とそれについてケンカした後、

家から自分が必要なものだけを持って、飛び出してやったよ…そして夢だった武闘家としてずっと世界を旅してきた。

きっと親父、俺が出て行ってから困ってるだろうよ。でももう俺は決めたんだ。家には帰らない…ってよ!」

 

ハッサンは少しさみしそうな笑顔でそう言った後、先ほど水の中に頭を突っ込んだアオサギを見た。その口には魚が咥えられていた。

 

「そうなんだ…ぼくはあることがきっかけで自分を探すための旅をすることにした。そして、何か身に付けたいと思って、

昨日から今日にかけてのあの試験に受けてみたんだ。まぁ落ちちゃったけどね。旅をするのはいいんだけど、

ぼくには妹しか家族が居なくて…一人にさせておくのはとてもかわいそうだとは思ったんだけど、好きなことしてくれていいよって

言ってくれたから、今ぼくはここに居るんだ」

「そうなのかよ。じゃあ、たまには帰ってあげることだな。大事な家族なんだろ!?」

 

そう言うとハッサンは、急に立ち上がり足で何かを蹴り、手で何かを殴るような素振りを始めた。

ロエルはそれをポカンとした顔で、眺めている。

 

「すまねぇ!ついつい体を動かしたくなってよ。こう見えても、ちょっとは武闘家としての心得はあるつもりだ!そろそろ行こうぜ、ロエル。

もう少ししたら日が暮れちまうぜ!水辺は夜になると冷えてくる」

「うん、そうだね。それに早く行かないと暴れ馬の被害もどんどん増えてくるかもしれないし」

 

そう言うとロエルも立ち上がり、二人は再び西の方向に足を進めた。

 

 

 

 

 

 

湖の湖畔を歩き始めて、もうどれ位の時間が経ったのだろうか。東の空は灰色がかった水色に染まり、

西の空は橙がかった金色に染まっている。

その前に浮かぶ雲は太陽の光が反射して一部はねずみ色に、一部は金色に輝いていた。

湖を越え、少し歩いたところにまた大きな河が流れているようだ。さっき、湖畔を歩いていた湖が源流みたいだ。横には森が見える。

 

「ハッサン、結構歩いたよね。夜は進むのは危ないからここら辺に野宿しよう」

「ああ、そうだな。この河と、湖の間を通れば、森にいけるはずだ!ようし、明日はいいよいよ暴れ馬の捕獲大作戦だっ!」

その後二人は手際よく野宿の準備を始めた。

 

 

 

パチパチと薪が燃える音がする。ハッサンは大きなあくびをした。ロエルも、意思とは反対に首がこくりと力なく落下する。

空は漆黒の闇。しかし、無数の星の光と西に傾く下弦の月だけが、空の纏う漆黒の衣を輝かせていた。

 

「はっ…!居眠りしてたみたい…ごめん、ハッサン」

「寝ろよ。俺が起きておくからさ…我慢するなって!!さぁさぁ!」

「でも…なんだか悪いなぁ…」

「いいって事よ!おまえと俺、毎日交代交代ってことで俺が最初にするから。ゆっくり寝ろ」

「ありがとう」

 

ロエルはそう言うと、ゴザの上で横になった。と、とたんにスースーと言う寝息を立て夢の世界へと旅立っていった。

ハッサンはロエルの顔をそっと覗き込む。その顔はとても穏やかだった。

その後ハッサンは魔物の気配を感じるために、感覚を研ぎ澄まそうとしていたが、ふと頭の中で不思議な感覚が過ぎる。

 

「ふぅ…寝てくれたか。今思えば、なんだかこいつとは少し前にも会ったような気がするんだが?いや、会っただけじゃなくて

今みたいな感じで、一緒に旅して野宿して、強い敵を倒しにいって、それで………ああっ〜もぉ!!わかんねぇやい!!」

 

ハッサンが結論に達せずそう言ったとたん、ロエルが変な寝言とともに唸り声を上げ始めた。

その顔は何かの苦痛に歪んでいるようだった。

 

「う…うーん…はっ!!…な…なんだ!これは!何がどうなってるんだ!か…体がう…ご…か…な…い…………う…うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「おい!!!ロエル、どうしたんだ!!??しっかりしろ!!おいっ!!」

 

ハッサンが、激しく揺れ動かすとロエルは目を開けた。

 

「あっ!!…ハッサン…ごめん…あれは…何だったんだろ?」

「ふぅー…よかった。びっくりするじゃねぇか…いきなり変な寝言言うし、大声出すから」

 

ハッサンはそう言うとロエルの側を離れ、さっき自分が座っていた場所に戻る。

 

「なんだかね、夢の中で仲間と一緒に強い魔物と戦ってたんだけど、やられるんだ。で、体が動かなくなって他の仲間も…

他の二人はどうなったのかは…わからない、でもそ…」

「俺もその感覚、わかるような気がする!」

 

ハッサンはその言葉を聞いたとたん目を見開き、そしてロエルの言葉をさえぎるかのように声を上げたた。

 

「えっ!!ハッサンにも?」

「ああ、さっき考えてたんだが、おまえとは前にも会ったような気がしてよ。おまけに強ぇ魔物も退治しに行くんだけど…

その後が全く覚えてねぇんだよ…」

「ぼくも、ハッサンとはいつか会った様な気が!…」

 

その後。二人は黙り込んだ。そしてこれ以上考えても何も進まないと言うことがわかったのか、ロエルは再び体を横にした。

ロエルは右手のひじで頭を付き、ハッサンの方を向いていた。そして口を開いた。

 

「ねぇ、ハッサン。幻の大地って知ってる?」

「はぁ?なんだそりゃ?幻?駄石?」

「知らないんならいいや。世界を旅してたって言うから何か知ってるかなって思って聞いてみたんだけど」

 

ロエルはそう言うと仰向けになった。ハッサンはそれが気になったが、詳しく言ってくれないロエルに聞き返す。

 

「おいおい、もったいぶらないで教えてくれよ!“幻の駄石”ってなんなんだよ?建物の材料に使えない“駄目石”のことか?」

「ぶ…ふはははっ!!ハッサン!“駄石”じゃなくて“大地”だよ!この世界の下にあるって言われているんだ。

さっきは、村から旅に出た理由として言わなかったけど、シエーナの近くにあった、大きな穴に落ちて幻の大地に行ってきたんだ。

それも理由の一つ。でもね、初めて会う人にこんなこと言っても信じてくれないと思って、言わなかった」

 

ロエルは目線を空に移す。ハッサンは“幻の駄石”といったことが相当恥ずかしかったのか、

下を向き顔を赤くしながらぽりぽりと頭をかいている。ロエルは勢いを付け体を起こした。

 

「ハッサンだったら信じてくれると思ってさ。今から言うことは信じてくれないかもしれないけど、そこのある町に行ったんだけど、

誰もぼくに気づかなかったんだ…不思議なところだったな…ぷっ…ふははっ!それにしても、“駄石”ってハッサンは大工さんみたいだな」

「そ…そうなんだそんな所に…って!!う…うるせー!おまえなぁっ!“駄石”でいつまで笑ってんだよっ!」

 

ハッサンはふてくされて空を見上げている。その間もロエルは涙を流しながら笑っている。

でもしばらくしてハッサンは気持ちを切り替えたのか、まじめな顔で話し出した。

 

「ロエル、俺は信じるぜっ!その幻の大地ってところ!もしその穴が見つかったら、飛び込んでみようぜ!俺と同じような感覚を

夢で見たヤツなんて…おまえ以外に多く居るとは考えられない。なんだかおまえとは不思議なものでめぐり合った気がする」

「ハッサン…ぼくも同じ感じがする!なんだか目がさえてきた。やっぱり起きておくよ」

 

 

そして、この後二人は明日のことも忘れて一晩中語り合っていた。

この日初めて出会ったばかりのはずなのに、不思議なくらい話が続いていた。

なんとなくだが、東の空がほんの少し明るくなっているような感じがした。

 

 

 

 

 

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